なぜ在庫を削減すべきか?キャッシュフロー経営が突破口!
1.状況に応じた在庫の捉え方
リーマンショックに端を発した未曾有の経営危機が日本のみならず、全世界の企業を襲いましたが、昨年には「在庫処理が進んだ」という文字が新聞やテレビで見られるようになりました。顧客の購買意欲が減退したにも関わらず、不況以前の計画に基づいて既に生産していたために、今回のような過剰在庫が発生しました。このように販売不振の状況になると、「在庫が悪である」「在庫を削減すべき」がよく理解できますが、販売が順調なときはなかなか実感できないのが正直なところではないでしょうか。なぜならば、在庫があるから短納期要求にも対応でき、販売機会を最大限に獲得できるという論理があるからです。
ここで、改めて「なぜ在庫を削減すべきなのか」という質問に取り組みたいと思います。在庫は商品供給(サプライチェーン)において果たしている役割から解きほぐして、在庫を削減する動機付けとなる指標をご紹介し、最後に在庫削減の手法例を述べたいと思います。

2.在庫削減に取り組む意義
まず、今回「在庫削減」に焦点を当てた理由を明らかにしたいと思います。1点目は、上述したように、昨今の販売不振で、自動車業界、あるいは自動車部品業界をはじめ、各業界で在庫が過剰な状態に陥ったからです。また10年後再来するであろう不況時に、少しでもダメージを最小化するための施策をここで考えることは有意義であると考えるからです。
2点目としては、製造業のグローバル化が進んだために、国際輸送が発生し、移動中の在庫を含めると在庫が大幅に増加してしまったことが挙げられます。グローバル化に伴い、ますます「在庫削減」は重要な経営課題になってきていると言えるからです。
3点目としては、企業会計制度において棚卸資産の評価の低価法による見直しが義務付けられることが挙げられます。この制度により、売れる見込みのない在庫は資産として評価されず、不良資産として売上原価に組み入れられることになります。このことからも売れない在庫の削減が喫緊の課題になります。
以上、3点から「在庫削減」をテーマとして選定しました。


3.在庫が果たす役割
次に、「在庫」の果たす役割から、なぜ在庫が必要かを明確にするとともに、そこに潜むリスクを明らかにしたいと思います。在庫の果たす役割には、大きく良い面と悪い面の2つがあるのではないかと思います。
良い面としては、需要と供給のギャップを埋めて、短納期、あるいは即座に商品を供給できるような環境を作るという役割があります。また、営業部門が「棚に商品が並んでいるから商品が売れる」と言うのも、在庫が需要を喚起するという良い面に立った発言です。
しかし、この良い面の裏には、「在庫が計画通りに売れる」という前提があります。現在の不況において、自動車業界なので発生した在庫過剰の事態は、この前提が崩れた結果です。そうすると見えてくるのが、「在庫」の役割の悪い面です。部品/仕掛/製品の各在庫はどれも、キャッシュをモノという形に変換しており、キャッシュフローを停止させるという悪い役割を果たしています。
「なぜ、在庫を削減すべきか」の問いに対する回答は、この悪い役割から説明できます。なぜならば在庫でなく、キャッシュという形で保有していれば、もっと企業価値向上のための活動に取り組むことができるからです。在庫はできる限り削減して、そこで余ったキャッシュを、設備増強による生産性向上や新製品開発による需要喚起などを目的とした活動などに充当するべきではないでしょうか。「在庫削減」の施策として、売れる見込みのない在庫をなくすという取り組みは必須の施策ではないでしょうか。

4.在庫管理のための指標
キャッシュフローの観点から、「在庫」は出来る限り削減すべきものであることが分かりましたが、どんな指標で、在庫を管理すればよいのでしょうか。まず挙がる指標は、在庫量・在庫金額、あるいは在庫回転数(在庫期間)ではないでしょうか。
(指標候補)
※部品/仕掛/製品の各在庫に対して
○在庫量・在庫金額
○在庫回転数(在庫期間)
キャッシュフローにより焦点を当てると、以下のようなキャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)も指標になり得ます。
(指標候補)
○キャッシュコンバージョンサイクル(CCC):買掛金支払から売掛金回収まで期間
説明サイト http://www.exbuzzwords.com/static/keyword_4942.html
この指標を改善しようとすると、「①在庫削減」以外にも「②買掛金サイト長期」「③売掛金サイト短期化」などの施策も考えられます。
その他にも、株式会社Jコスト研究所の田中正知さんが開発された「Jコスト論」という概念に基づく指標もあります。利回り計算と同じ考え方、「いくらのコストと時間を掛けて、どれだけの利益を得たか」を指標化したものです。これまでの利益率(=利益/コスト)に時間軸を導入したものです。(詳細は後述)
(指標候補)
○利回り = 利息 / (預入金額 × 預入時間)
○収益性 = 利益 / (投入金額 × 拘束時間)← 「Jコスト論」で定義される指標
拘束時間は、キャッシュがモノ(部品/仕掛/製品在庫)に変換されている時間で、在庫期間に相当します。上記の「収益性」という指標を改善しようとすると、「①在庫期間短縮」「②投入金額の低減」「③利益の増大」という3つの方向性があります。特に、重要で、かつ実現性の高いのが「①在庫期間短縮」です。これを実現するためには、必要なときに、必要な部品を購入したり、必要な時に製品を製造したりして在庫回転率を上げればよいからです。これはCCCにおいて、「①在庫削減」を行うのと同じことです。この指標が優れている点は、コスト(=投入金額)とキャッシュフローを繋いでいるところです。コストを扱っているにも関わらず、この指標を改善しようとすると、キャッシュフロー改善になっています。
(※「Jコスト論」を紹介しているURL
本流トヨタ方式
http://jbpress.ismedia.jp/category/toyota
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/854
株式会社Jコスト研究所ホームページ
http://www.j-cost.com/
【参考】Jコスト論とは
トヨタ自動車の田中 正知さんが開発した会計学
参考資料 http://jbpress.ismedia.jp/category/toyota
1)Jコスト論開発の目的
「現場改善の要諦は、自働化や品質保証体制によってQ(品質)を確保した上で、Dの管理(ジャストインタイムによるリードタイム短縮)に専念することにある。そうすれば現場は強くなるし、C(収益/コスト低減)は後からついてくる」を数値的に、議論できるようにすることが目的である
2)Jコスト論とは
○時間軸を導入して、業績の基本である利益率を議論できるようにした管理会計のことである。
○どれだけのコストと時間をかけて、利益を獲得したかを数値化した指標のこと
⇒ 利回りの計算と同じ考え方で計算する

5.在庫削減への取組み
在庫削減するための指標の候補が見えてきたところで、次に具体的な施策について検討します。施策は大きく分けて、「①過剰在庫の削減」「②理論在庫水準の低減」「③業務の標準化・自動化」「④マネジメント力強化」の4つの方向性があります。これらを実現するためには、基本的に次の5つのパラメーターを最適化することになります。

例えば、「②理論在庫水準の低減」のためには、「B.発注・出荷サイクル」を短期化するとともに、「C.発注・出荷ロットサイズ」を小さくします。このとき、待ち時間が減少し、その結果「D.出荷リードタイム」が短縮化します。最終結果として、在庫が削減されます。
また、「③業務の標準化・自動化」のためには、需要予測ソフトを活用することで、需要予測精度を属人化することなく、安定化させることができます。結果として、長期的に見れば在庫が削減されます。

6.最後に
ここまで「なぜ在庫を削減すべきなのか」という質問に対して、在庫の役割から切り込み、キャッシュフローの観点から、「在庫削減」の必要性を説明しました。また、「在庫削減」の施策例についても簡単に触れました。
前述のように「在庫削減」はキャッシュフロー改善の一つの施策であります。そこで、キャッシュフロー改善の施策を別のアプローチで検討したいと思います。そのひとつのアプローチとして、集合動産(在庫)を担保にして融資を受ける「動産担保融資」という方法があります。この方法では、年度末の売上高予測を基準に融資します。そのため、担保となる集合動産は「売れる商品(在庫回転率の高い商品)」でなければなりません。
在庫削減の目的がキャッシュフロー改善であるならば、「動産担保融資」などの施策も幅広く検討しては如何でしょうか。

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リーマンショックに端を発した未曾有の経営危機が日本のみならず、全世界の企業を襲いましたが、昨年には「在庫処理が進んだ」という文字が新聞やテレビで見られるようになりました。顧客の購買意欲が減退したにも関わらず、不況以前の計画に基づいて既に生産していたために、今回のような過剰在庫が発生しました。このように販売不振の状況になると、「在庫が悪である」「在庫を削減すべき」がよく理解できますが、販売が順調なときはなかなか実感できないのが正直なところではないでしょうか。なぜならば、在庫があるから短納期要求にも対応でき、販売機会を最大限に獲得できるという論理があるからです。
ここで、改めて「なぜ在庫を削減すべきなのか」という質問に取り組みたいと思います。在庫は商品供給(サプライチェーン)において果たしている役割から解きほぐして、在庫を削減する動機付けとなる指標をご紹介し、最後に在庫削減の手法例を述べたいと思います。

2.在庫削減に取り組む意義
まず、今回「在庫削減」に焦点を当てた理由を明らかにしたいと思います。1点目は、上述したように、昨今の販売不振で、自動車業界、あるいは自動車部品業界をはじめ、各業界で在庫が過剰な状態に陥ったからです。また10年後再来するであろう不況時に、少しでもダメージを最小化するための施策をここで考えることは有意義であると考えるからです。
2点目としては、製造業のグローバル化が進んだために、国際輸送が発生し、移動中の在庫を含めると在庫が大幅に増加してしまったことが挙げられます。グローバル化に伴い、ますます「在庫削減」は重要な経営課題になってきていると言えるからです。
3点目としては、企業会計制度において棚卸資産の評価の低価法による見直しが義務付けられることが挙げられます。この制度により、売れる見込みのない在庫は資産として評価されず、不良資産として売上原価に組み入れられることになります。このことからも売れない在庫の削減が喫緊の課題になります。
以上、3点から「在庫削減」をテーマとして選定しました。


3.在庫が果たす役割
次に、「在庫」の果たす役割から、なぜ在庫が必要かを明確にするとともに、そこに潜むリスクを明らかにしたいと思います。在庫の果たす役割には、大きく良い面と悪い面の2つがあるのではないかと思います。
良い面としては、需要と供給のギャップを埋めて、短納期、あるいは即座に商品を供給できるような環境を作るという役割があります。また、営業部門が「棚に商品が並んでいるから商品が売れる」と言うのも、在庫が需要を喚起するという良い面に立った発言です。
しかし、この良い面の裏には、「在庫が計画通りに売れる」という前提があります。現在の不況において、自動車業界なので発生した在庫過剰の事態は、この前提が崩れた結果です。そうすると見えてくるのが、「在庫」の役割の悪い面です。部品/仕掛/製品の各在庫はどれも、キャッシュをモノという形に変換しており、キャッシュフローを停止させるという悪い役割を果たしています。
「なぜ、在庫を削減すべきか」の問いに対する回答は、この悪い役割から説明できます。なぜならば在庫でなく、キャッシュという形で保有していれば、もっと企業価値向上のための活動に取り組むことができるからです。在庫はできる限り削減して、そこで余ったキャッシュを、設備増強による生産性向上や新製品開発による需要喚起などを目的とした活動などに充当するべきではないでしょうか。「在庫削減」の施策として、売れる見込みのない在庫をなくすという取り組みは必須の施策ではないでしょうか。

4.在庫管理のための指標
キャッシュフローの観点から、「在庫」は出来る限り削減すべきものであることが分かりましたが、どんな指標で、在庫を管理すればよいのでしょうか。まず挙がる指標は、在庫量・在庫金額、あるいは在庫回転数(在庫期間)ではないでしょうか。
(指標候補)
※部品/仕掛/製品の各在庫に対して
○在庫量・在庫金額
○在庫回転数(在庫期間)
キャッシュフローにより焦点を当てると、以下のようなキャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)も指標になり得ます。
(指標候補)
○キャッシュコンバージョンサイクル(CCC):買掛金支払から売掛金回収まで期間
説明サイト http://www.exbuzzwords.com/static/keyword_4942.html
この指標を改善しようとすると、「①在庫削減」以外にも「②買掛金サイト長期」「③売掛金サイト短期化」などの施策も考えられます。
その他にも、株式会社Jコスト研究所の田中正知さんが開発された「Jコスト論」という概念に基づく指標もあります。利回り計算と同じ考え方、「いくらのコストと時間を掛けて、どれだけの利益を得たか」を指標化したものです。これまでの利益率(=利益/コスト)に時間軸を導入したものです。(詳細は後述)
(指標候補)
○利回り = 利息 / (預入金額 × 預入時間)
○収益性 = 利益 / (投入金額 × 拘束時間)← 「Jコスト論」で定義される指標
拘束時間は、キャッシュがモノ(部品/仕掛/製品在庫)に変換されている時間で、在庫期間に相当します。上記の「収益性」という指標を改善しようとすると、「①在庫期間短縮」「②投入金額の低減」「③利益の増大」という3つの方向性があります。特に、重要で、かつ実現性の高いのが「①在庫期間短縮」です。これを実現するためには、必要なときに、必要な部品を購入したり、必要な時に製品を製造したりして在庫回転率を上げればよいからです。これはCCCにおいて、「①在庫削減」を行うのと同じことです。この指標が優れている点は、コスト(=投入金額)とキャッシュフローを繋いでいるところです。コストを扱っているにも関わらず、この指標を改善しようとすると、キャッシュフロー改善になっています。
(※「Jコスト論」を紹介しているURL
本流トヨタ方式
http://jbpress.ismedia.jp/category/toyota
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/854
株式会社Jコスト研究所ホームページ
http://www.j-cost.com/
【参考】Jコスト論とは
トヨタ自動車の田中 正知さんが開発した会計学
参考資料 http://jbpress.ismedia.jp/category/toyota
1)Jコスト論開発の目的
「現場改善の要諦は、自働化や品質保証体制によってQ(品質)を確保した上で、Dの管理(ジャストインタイムによるリードタイム短縮)に専念することにある。そうすれば現場は強くなるし、C(収益/コスト低減)は後からついてくる」を数値的に、議論できるようにすることが目的である
2)Jコスト論とは
○時間軸を導入して、業績の基本である利益率を議論できるようにした管理会計のことである。
○どれだけのコストと時間をかけて、利益を獲得したかを数値化した指標のこと
⇒ 利回りの計算と同じ考え方で計算する

5.在庫削減への取組み
在庫削減するための指標の候補が見えてきたところで、次に具体的な施策について検討します。施策は大きく分けて、「①過剰在庫の削減」「②理論在庫水準の低減」「③業務の標準化・自動化」「④マネジメント力強化」の4つの方向性があります。これらを実現するためには、基本的に次の5つのパラメーターを最適化することになります。

例えば、「②理論在庫水準の低減」のためには、「B.発注・出荷サイクル」を短期化するとともに、「C.発注・出荷ロットサイズ」を小さくします。このとき、待ち時間が減少し、その結果「D.出荷リードタイム」が短縮化します。最終結果として、在庫が削減されます。
また、「③業務の標準化・自動化」のためには、需要予測ソフトを活用することで、需要予測精度を属人化することなく、安定化させることができます。結果として、長期的に見れば在庫が削減されます。

6.最後に
ここまで「なぜ在庫を削減すべきなのか」という質問に対して、在庫の役割から切り込み、キャッシュフローの観点から、「在庫削減」の必要性を説明しました。また、「在庫削減」の施策例についても簡単に触れました。
前述のように「在庫削減」はキャッシュフロー改善の一つの施策であります。そこで、キャッシュフロー改善の施策を別のアプローチで検討したいと思います。そのひとつのアプローチとして、集合動産(在庫)を担保にして融資を受ける「動産担保融資」という方法があります。この方法では、年度末の売上高予測を基準に融資します。そのため、担保となる集合動産は「売れる商品(在庫回転率の高い商品)」でなければなりません。
在庫削減の目的がキャッシュフロー改善であるならば、「動産担保融資」などの施策も幅広く検討しては如何でしょうか。

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